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札幌地方裁判所 昭和35年(ワ)368号 判決

原告 朝日工業株式会社

被告 国

訴訟代理人 高橋欣一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

(一)  先ず別紙第一、第二各目録記載の物件が本件強制執行の当時原告の所有であつたか否かについて判断するに、甲第一六号証の二、同第一七号証の二、同第二二号証同第二三号証(いずれもその成立は当事者間に争いがない)同第第二五号証、同第二六号証(いずれも証人横田正二の証言により真正に成立したものと認める)と証人源新義典、同横田正二の証言によると、訴外横田建設株式会社は昭和三一年八月北海道から小樽市朝里新光町の道営試作住宅新築工事を請負い、原告会社は右工事の佐完成保証人となつたが、横田建設株式会社は同年一〇月に至つて資金難等かち右工事に挫折を来たし、それがため道からの要請もあつて保証人たる原告会社は右工事現場に多少の建築資材を提供するとともに、若干の労務者を派遣したが同年一一月五日頃横田建設株式会社は原告会社に全面的協力を要請し、原告会社はこれに応じた事実を認めることができ、証人横田正二の証言を除く前記各証拠と甲第一号証、同第二号証(いずれも証人源新義典の証言により真正に成立したものと認める)、同第三号証の一、二、同第一五証の二、三(いずれもその成立は当事者間に争いがない)同第二九号証の一、二(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める)を綜合すると、原告会社は右工事を施工するため訴外土屋木材株式会社から木材七〇〇石を一〇〇石当り金三一〇、〇〇〇円で買入れ、これを昭和三一年一一月一二日から同月二一日にかけて工事現場に搬入し別紙第一、第二目録記載の物件はそれを原告会社の従業員において加工した物の一部であることを認めることができ、右認定に反する証人横田正二の証言及び乙第四乃至第六号証(いずれもその成立は当事者間に争いがない)の各供述記載は前記各証拠に照らしにわかに信用できない。もつとも、乙第一号証(その成立は当事者間に争いがない)によれば、差押債権者訴外松吉佐孝、債務者横田建設株式会社間の強制執行について昭和三二年二月原告会社が配当要求をし、その債権の表示の一部として木材代金等二七〇万円を「原告会社において立替払済」として掲げていることを認めることができ、右の事実は一見、土屋木材株式会社から前記木材を買受けた者は横田建設株式会社であつて、原告会社はその代金を立替払したに過ぎないことを示しているかのようであるが、証人源新義典の証言によれば、原告会社が工事保証完成人として前記工事のために支出した金員はすべて横田建設株式会社に対して求償することができるとの考えから漫然と右のような記載をして配当要求をしたものであることを認めることができるのであつて、未だ原告会社が前記木材の買受人であるとの前記認定事実を覆えすに足りるものではない。また原告会社が右に述べた木材を土屋木材株式会社から買入れたのは横田建設株式会社の代理人として買受けた旨の被告並びに補助参加人の主張については、これに沿う証人横田正二の証書及び前掲乙第四乃至第六号証の記載があるが、右各証拠が採用できないことは先に説示のとおりであり、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

ところで補助参加人は横田建設株式会社が原告会社から更らに右木材を買受けた旨主張し、証人横田正二の証書中にはそれに沿うかのような部分があるけれども、右証言部分も次のような理由により右主張事実を認めるに足りるものではない。即ち同証書中その余の部分及び前掲乙第四号証、同第六号証を綜合すると横田建設株式会社は原告会社に対し約六〇〇、〇〇〇円の約束手形しか振出していない(しかもこれは不渡りになつた)ことが認められるし、また横田建設株式会社において右木材の引渡を受けたことは、これを認めるに足りる証拠がないからである。また、原告会社が昭和三二年二月に他の債権者松吉と佐孝のなした強制執行に対し配当要求をしたことは先に述べたとおりであるが、右事実も先に述べたmニころと同様の理由により、補助参加人の右主張事実を認めるに足りるものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

以上述べたところにより、別紙第一、第二目録記載の物件の所有権は本件強制執行の当時原告にあつたと認めるのが相当である。

(二)  札幌地方裁判所小樽支部執行吏佐久間左太郎及び同執行吏代理近藤勇吉が訴外杉中武男より委任を受けて昭和三一年一二月二五日小樽市朝里新光町北海道営試作住宅区内にある原告会社の新築工事現場で別紙第一目録記載の物件を横田建設の所有物件として差押え、次いで訴外涌沢良吉より委任を受けて昭和三二年四月七日右同所において右差押物件に対して照査手続をし、新たに別紙第二目録記載の物件を横田建設株式会社の所有物件として差押え、右各物件の占有が執行吏佐久間左太郎に移転した事実及び杉中武男による強制執行の基本となつた債務名義が札幌法務局所属公証人室谷慶一作成昭和三一年第三二七一号債権者杉中武男、債務者横田建設株式会社間の売掛代金債権金一、〇〇〇、〇〇〇円の公正証書の執行力ある正本であり、涌沢良吉による強制執行の基本となつた債務名義が右公証人作成昭和三一年第三五一九号債権者涌沢良吉債務者横田建設株式会社間の労務賃金債権金六九八、二一〇円の公正証書の執行力ある正本であることはいずれも当事者間に争いがなく、また原告が杉中武男の右別紙第一目録記載の物件に対する強制執行について昭和三二年一月七日札幌地方裁判所小樽支部から強制執行停止決定を得たこと、涌沢良吉の右別紙第二目録記載の物件に対する強制執行については昭和三二年四片一五日札幌地方裁判所から右物件のうち足場丸太二五〇本を除くその余の物件について強制執行停止決定を得たこと及び涌沢良吉が昭和三二年一一月二二日右強制執行を全部解除したことは当事者間に争いがない。

しかし、別紙第二目録記載の物件のうち足場丸太二五〇本について強制執行停止決定がなされたことを認めるに足りる証拠は何らない。

そうして杉中武男の別紙第一目録記載の物件に対する強制執行の停止決定が発せられたのは原告が別紙第一目録記載の物件の強制執行について差押債権者杉中武男を相手どつて第三者異議の訴を提起し、右強制執行停止の申立をしたことによるものであり、右事件の判決は原告勝訴のうちに確定したことは証人源新義典の証言及び甲第三号証の一、二、同第五号証、同第一九号証(その成立は当事者間に争いがない)によつて認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(三)  執行吏佐久間左太郎及び同執行吏代理近藤勇吉が右に述べた杉中武男を相手とする強制執行停止決定の後である昭和三二年三月二八日から同年四月二日までの間に四日にわたり別紙第一目録記載の物件全部を差押場所である小樽市朝里新光町から同市勝納町二一番地畑野木材店工場土場に保管替したこと、また杉中武男の代理人からの昭和三二年五月二一百付保管替申立書管替完了届に関する昭和三二年七月四日付上申書とを執行記録に編綴し別紙第一目録記載の物件が小樽市色内町五丁目四番地北海道酒類販売株式会社に移動されたとの届出のままとなしたこと、その後右物件が紛失したことは当事者間に争いがない。

(四)(1)  そこで先ず強制執行停止の決定がなされている別紙第一目録記載の物件について執行吏が保管替をなすことの可否について検討するに、強制執行停止はその取消と異り爾後の手続、即ち本件にあつては換価、配当、を進めることを禁止するにとどまり、既になされた差押の効力を排除するものでなく、差押は依然として有効に存続するのであり従つて強制執行停止決定後も差押物件に対する執行吏の占有も当然存続する。

ところで所謂保管替とは執行吏が現に占有する差押物件の保管場所を変更する事実上の行為にすぎず、これは執行吏が差押物件に対する占有を継続するための一手段であつて換価、配当のための執行手続ではないから執行吏は強制執行停止後も差押物件の保管替をすることは何ら右決定に触れるものでなく、これを違法とする原告の主張は理由がない。

(2)  次に本件における前記保管替の必要性、相当性について判断するに、前記のとおり別紙第一目録記載の物件が小樽市朝里新光町北海道営試作住宅新築現場において差押えられ、昭和三二年三月二八日から同年四月二日までの間に小樽市勝納町二一番地畑野木材店土場に保管替されたことは当事者間に争いないところであるが、証人源新義典の証言及び前掲甲第一号証の二によると右建築工事は冬期積雪等のため昭和三一年、一二月末頃から中止され現場には原告会社の作業小屋があつて従業員二名程が時々見廻つていたことが窺えるが、他に常時これを監視をしていたことを認めるに足りる証拠はなく、また右証人の証言と証人近藤勇吉の証言によれば、現場は人家もまばらで差押物件は程んど野外に雪をかぶつたまま野積みにされていたことを認めることができるから、右建築現場が差押物件の保管場所として原告の主張するように盗難の虞の全くない安全無比の場所であつたということはできない。甲第二〇号証(その成立は当事者間に争いない)によつて認められる北海道が右現場に施した資材の持出及び敷地内立入禁止も、かような掲示がなされたから差押物件が安全であるということはできないのであり、逆に盗難等の危険があつたから右のような掲示がなされたとも言うことができるであろう。一方証人近藤勇吉の証言によればい畑野木材店土場は周囲に若干の塀もあり他の木材も保管されている場所であつたことが認められるから、右畑野木材店士場が差押場所である建築現場より盗難の危険がより大であつたということはできない。そうして甲第六号証(その成立は当事者間に争いがない)及び証人近藤勇吉の証言によれば右保管替及びその場所の指定は差押債権者代理人佳山良三弁護士からの監視不完全を理由とする申出に基いてなされたのであることが認められるのであり、また同証人の証言によれば、差押物件の保管場所の選定については執行吏は差押物件を自ら保管するに適当な倉庫等は有せず従つて差押物件は金銭、貴金属等の高価品を除いては債務者その他の第三者に保管させるのが原則となつており、しかも第三者に保管させる場合も特に差押債権者からその費用の支出がない限り正規の倉庫業者に保管させることはなく関係者が指示した場所に保管するのが現在の執行の実情であることが認められるから、既に述べたすべての事情を考慮すると本件保管替が全然必要性のない不当なものであつたとは断じ難く(このことは別紙第一目録記載の物件が右畑野木材店丘場から紛失したものでないことからも明らかである)また他に執行吏が別紙第一目録記載の物件が紛失することを認識あるいは予想して右保管替をなしたものであることを認めるに足りる証拠は何ら存在しない。

従つて保管替に名を籍りて右物件を搬出して何人かに不法に処分せしめた皆の原告の主張は採用できない。

(3)  続いて保管者選任の問題について判断する。

甲第六号証、同第七号証の一乃至四、同第三四号証の二(いずれもその成立は当事者間に争いがない)乙第二号証の一乃至四(弁論め全趣旨により真正に成立したものと認める)と証人近藤勇吉の証言を綜合すると前記保管替にあたつた執行吏代理近藤勇吉は差押物件(別紙第一目録記載の物件)を差押債権者からの保管替の申立により畑野木材店土場に搬入したところ急拠差押債権者の立会人等から差押債務者横田建設株式会社の従業員である斉藤五次に保管させるよう申入があり、そこで右執行吏代理は右物件が昭和三一年一二月二五日最初に差押えられたときにも差押現場にいた斉藤五次を横田建設株式会社の従業員と考え、同人を代理人として従来どおり横田建設株式会社に右物件を保管させた事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうして右証人の証言及び前掲甲第三四号証の二によると執行吏代理は斉藤五次を横田建設株式会社の大工の棟梁で小樽市朝里附近に住居を有し年令五〇才前後であるという同人に対する従前からの認識があつたので同人の職業、財産、素行、経歴、家族関係等については特別の調査をすることなく横田建設株式会社の従業員として保管させたことを認めることができる。

ところでかかる保管者の選任方法につき執行吏代理に過失があつたか否かについて検討するに、執行吏が差押物件を第三者(正規の倉庫業者等を除く)に保管させる場合にはその第三者は専ら差押関係者の推薦に頼り、保管者の職業、財産、経歴等についても推薦者から事情を聴取しこれを執行の際に保管者に、口頭で確認をする程度で財産、経歴等について特別な調査をしないのが通例であることは当裁判所に顕著な一事実であり、それも現在の執行の物的へ人的設備から見て止むを得ないものと解されるから、前記認定事実からすると、斉藤五次を横田建設株式会社の代理人(従業員)として保管させた点において、原告の主張すように保管者の選任につき執行吏(代理)に過失があつたとはいえない。

(4)  保管替後の執行吏の保管義務の点について判断するに、甲第一〇号証(その成立は当事者間に争いがない)と証人近藤勇吉の証言によると、執行吏代理近藤勇告は保管替後である昭和三四年四月七日照査手続のため畑野木材店に赴き別紙第一目録記載の物件の存在を確認し、同人は札幌から小樽への通勤の途中車窓から畑野木材店土場にあた右物件を観察していたこと、また他の執行事件で畑野木材店附近を通りかかつた際にも右物件が存在することを確めていたことを認めることができる。

被告並びに補助参加人は前記のとおり執行吏が差押物件の保管を横田建設株式会社に任せた以上その後は執行吏は自ら監視する法的義務がないと主張するが、執行吏は差押物件を第三者に保管させた場合にもその第三者と重附。して保管監視の責に任ずる義務があると解すべきである。しかしながら、現在の執行吏制度特に所属地方裁判所の管内全域に亘つて職務を執行し、相当多数の事件を取扱つて生計を維持している、現実からみると執行吏は第三者に保管させた差押物件を日夜巡回して監視することは事実上不可能であり、また証人近藤勇吉の証言によれば差押物件の点検をするのは関係人の申出あるときその他特殊な場合に限られていること(しかもこの場合には当事者から手数料を徴するのである)を認めることができるのであるから執行吏としては前記認定の程度の監視により、一応自己の保管監視の義務を尽したものといわなければならず、これを怠つた旨の原告の主張は採用できない。

(5)  甲第七号証の五、同第八号証の一、二、同第三三号証の二(その成立はいずれも当事者間に争いがない)と証人近藤勇吉の証言によると別紙第一目録記載の物件は前記保管替後である昭和三二年六月一一日斉藤五次によつて執行吏に無断で小樽市色内町五丁目四番地北海道酒類販売株式会社倉庫に再度保管替され、その後何人かにようて同所から不法に搬出処分されて紛失した事実な認めることができるのであつて、執行吏(代理)が右物件の紛失について事前に認識していたとか、あるいは保管義務を怠つたために紛失したことを認めるべき証拠は何らなく、従つて右物件の紛失は全く執行吏の責任によるものでないことは明らかである。

(五)(1)照査手続による別紙第二目録記載の物件の差押の際正当な立会人がいなかつた旨の原告の主張については、甲第四号証(その成立は当事者間に争いがない)、同第一〇号証によれば差押債務者横田建設株式会社の住所は北海道余市郎余市町大川町八丁目七番地であることが認められ、右照査手続による差押は債務者の住居においてなされたものでないことは既に述べたところから明らかであり、また執行吏が差押をするについて抵抗を受けた旨の主張立証もないからこれは民事訴訟法第五三七条による立会人を必要としない場合に該当するのでありこれと異る原告の前記主張はその前提を欠くものであつて採用できない。

(2)  次に執行吏が別紙第二目録記載の物件を競売に付したことが違法であるか否かについて検討する。

まず昭和三一年一二月二五日別紙第一目録記載の物件について杉中武男が差押をなし、これに対し昭和三二年月七日強制執行停止決定があつたこと、及び昭和三二年四月七日別紙第二目録記載の物件について涌沢良吉が照査手続による差押をなしそのうち足場丸太二五〇本を除くその余の物件について昭和三二年四月一五日原告と涌沢良吉との間に強制執行停止決定があつたことは既に述べたとおり当事者間に争いがなく、別紙第二目録記載の物件が差押債権者杉中武男、債務者横田建設株式会社間の強制執行として競売に付され、昭和三二年四月一六日訴外大沼与三がこれを競落した事実は当事者間に争いがない。また別紙第二目録記載の物件のうち足場丸太二五〇本については強制執行停止決定がなされていないことは既に述べたとおりであるからこれに対する競売は何ら違法でない。そこで別紙第二目録記載の物件のうち右足場丸太二五〇本を除くその余の物件の競売について考察しよう。

右に述べたような場合最初の差押債権者は後に照査手続によつて新たに差押えた物件(本件にあつては別紙第二目録記載の物件)め競売代金についても観当要求を受けることができ、後の差押債権者が執行委任を解除したときでも後の差押は最初の差押債権者のために存続するのであるから(大正四年五月二九日民第七七五号法務局長回答参照)、最初の差押債権者が、自己が被告となつていない照査差押債権者に対する第三者異議の訴に基く強制執行停止決定のため差押物件(照査手続により新たに差押えた物を含む)を競売して自己の債権の弁済を受け得なくなる理由は存しないのであつて、従つて本件においては別紙第二目録記載の物件に対し最初の差押債権者杉中武男の執行を継続することは可能であり、右物件(足場丸太二五〇本を除く)について照査差押債権者涌沢良吉に対する強制執行停止決定が当然に右物件に対する最初の差押債権者の執行をも停止する効力を有するものと解することはできない。そうしてかかる場合最初の差押債権者のために執行を継続し、照査手続により新たに差押えられた物件に対し競売手続を進行させることは執行吏の当然の義務でもある昭和三五年三月一七日札幌高裁決定高裁民集一三巻二号一九一頁参照)。(附言するならば本件においては偶々別紙第一、第二目録記載の各物件についていずれも原告が第三者異議を理由にそれぞれの差押債権者との関係で執行停止決定を得ているので原告が右競売が許されないと主張するものと推察されるがかかる場合もその結論は右に述べたところと同一である。)

従つて執行吏が別紙第二目録記載の物件を競売に付したことは、原告からの競売延期申出を牛藻ロして競売した点も含めてすべて適法であつてこれと異る原告の主張は理由がない。

(3)  そこで執行吏が照査手続による別紙第二目録記載の物件の差押について債権者杉中武男と債務者横田建設株式会社との関係で執行調書を作成しなかつた違法がある旨の原告の主張について判断するに、かような場合基本の差押債権者との関係で執行調書を作成すべきことを定めた規定は存在しない。原告はこれがため別紙第二目録記載の物件について基本の差押債権者杉中武男との関係で強制執行停止決定を得られなかつた旨主張するが、前記説示のとおり照査手続により新たに差押えられた物件については基本の差押債権者のためにも差押の効力が当然に及ぶのであるから、基本の差押債権者杉中武男の執行調書と同人に対する強制執行停止決定及び照査差押調書が存在すれば別紙第二目録記載の物件についても原告は第三者異議の事由を主張して強制執行停止決定を得ることが充分可能であり原告の右各主張はいずれも理由がない。

(4)  次いで別紙第二目録記載の物件の競落価格の点について検討する。

右物件の原告主張の原価、運賃、工賃の内訳並びに各競落価格の内訳は別紙第二目録記載のとおりであり、競落価格合計が金八六、三〇〇円であることは当事者間に争いがなく、その各別の内訳については被告並びに補助参加人において明らかに争わないから自白したものとみなす。

ところで動産が競売に付される場合、その競落価格が時価を遥かに下回ること、時には時価の五分の一乃至三分一にもなること、及び動産の取得価格との格差は一層大であることは当裁判所に顕著な事実であるが、本件について競落価格を原告主張の取得価格と比較すると、足場丸太は約七分の一、切込木材は約三分の一、建築用材は約五分の二、窓枠組立取混は約一二〇分の一、型枠取混は約一三分の一である。前三者については足場丸太が取得原価に比して競落価格がやや低いことが窺えるが、他は取得原価との対比においては相当な競落価格であつたということができ、後二者の物件についてはそれぞれ木材を特殊な用途に加工したものであり、木材は用途に応じて細分加工すれば他にこれを利用することが困難であり、その取引価格もかなり低下し、そのため競落価格は著るしく低下せざるを得ないことを考慮する必要がある(この場合加工賃などは全く考慮されない)。

従つて別紙第二目録記載の物件に対する競落価格は全体として著るしく低廉で不相当であつたということはできない。

(5)  次に原告は前記競落代金のうち金八四、七九八円を昭和三二年五月二日涌沢良吉に交付したことが前記昭和三二年四月一五日の強制執行停止決定に触れると主張するが、別紙第二目録記載の物件を競売することが適法であることは既に説示のとおりであり右物件が競落されて原告がその所有権を喪失した以上その競売代金の交付と原告の所有権喪失とは一応何ら関係がない。換言すれば、原告は右物件の所有権の侵害を理由としてその損害の賠償を求めるものであるが(競売が適法である以上原告の右物件に対する所有権の侵害はなく、右競売代金がいずれの債権者に交付されるかということはこれと無関係であり、従つて原告の右主張は本件にあつては主張自体失当である。

(六)  以上述べたとおり原告の主張はいずれも理由がなく、別紙第一、第二物件目録記載の各物件に対する原告の所有権侵害による損害の賠償を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井敬二郎 長西英三 定塚孝司)

第一、第二目録〈省略〉

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